こ》の心《こゝろ》知《し》れざりけん少《ちい》さき胸《むね》に今日《けふ》までの物思《ものおも》ひはそも幾何《いくばく》ぞ昨日《きのふ》の夕暮《ゆふぐれ》お福《ふく》が涙《なみだ》ながら語《かた》るを聞《き》けば熱《ねつ》つよき時《とき》はたえず我名《わがな》を呼《よ》びたりとか病《やまい》の元《もと》はお前様《まへさま》と云《い》はるゝも道理《どうり》なり知《し》らざりし我《われ》恨《うら》めしくもらさぬ君《きみ》も恨《うら》めしく今朝《けさ》見舞《みま》ひしとき痩《や》せてゆるびし指輪《ゆびわ》ぬき取《と》りてこれ形見《かたみ》とも見給《みたま》はゞ嬉《うれ》しとて心細《こゝろぼそ》げに打《う》ち笑《ゑ》みたる其心《そのこゝろ》今少《いますこ》し早《はや》く知《し》らば斯《か》くまでには衰《おとろ》へさせじをと我罪《わがつみ》恐《おそ》ろしく打《うち》まもれば。良《りやう》さん今朝《けさ》の指輪《ゆびわ》はめて下《くだ》さいましたかと云《い》ふ声《こゑ》の細《ほそ》さよ答《こた》へは胸《むね》にせまりて口《くち》にのぼらず無言《むごん》にさし出《だ》す左《ひだり》の手《て》を引《ひ
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