ろ》は心《こゝろ》の外《ほか》に友《とも》もなくて良之助《りやうのすけ》が目《め》に映《うつ》るもの何《なん》の色《いろ》もあらず愛《あい》らしと思《おも》ふ外《ほか》一|点《てん》のにごりなければ我《わが》恋《こ》ふ人《ひと》世《よ》にありとも知《し》らず知《し》らねば憂《う》きを分《わか》ちもせず面白《おもしろ》きこと面白《おもしろ》げなる男心《をとこごゝろ》の淡泊《たんぱく》なるにさしむかひては何事《なにごと》のいはるべき後世《のちのよ》つれなく我身《わがみ》うらめしく春《はる》はいづこぞ花《はな》とも云《い》はで垣根《かきね》の若草《わかくさ》おもひにもえぬ

    (下)

 千代《ちい》ちやん今日《けふ》は少《すこ》し快《よ》い方《はう》かへと二|枚折《まいをり》の屏風《べうぶ》押《お》し明《あ》けて枕《まくら》もとへ坐《すは》る良之助《りやうのすけ》に乱《み》だせし姿《すがた》恥《はづ》かしく起《お》きかへらんとつく手《て》もいたく痩《や》せたり。寝《ね》て居《ゐ》なくてはいけないなんの病中《びやうちう》に失礼《しつれい》も何《なに》もあつたものぢやアないそれとも少《す
前へ 次へ
全19ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
樋口 一葉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング