こ》し起《お》きて見《み》る気《き》なら僕《ぼく》に寄《よ》りかゝつて居《ゐ》るがいゝと抱《いだ》き起《おこ》せば居直《ゐなほ》つて。良《りやう》さん学校《がくかう》が御試験中《ごしけんちう》だと申《まを》すではございませんか。アヽ左様《さう》。それに妾《わたし》の処《ところ》へばつかし来《き》て居《ゐ》らしやつてよろしいんですか。そんな事《こと》まで気《き》にするには及《およ》ばない病気《びやうき》の為《ため》にわるいから。だつて何《ど》うもすみませんもの。すむのすまないのとそんなこと気《き》にするより一|日《にち》も早《はや》く癒《よ》くなつて呉《く》れるがいゝ。御親切《ごしんせつ》に有難《ありがた》うございますですが今度《こんど》は所詮《しよせん》癒《なほ》るまいと思《おも》ひます。又《また》馬鹿《ばか》なことを云《い》ふよそんな弱《よは》い気《き》だから病気《びやうき》がいつまでも癒《なほ》りやアしない君《きみ》が心細《こゝろぼそ》ひ事《こと》を云《い》つて見《み》たまへ御父《おとつ》さんやお母《つか》さんがどんなに心配《しんぱい》するか知《し》れません孝行《かう/\》な君《きみ》にも似合《にあ》はない。でも癒《よ》くなる筈《はず》がありませんものと果敢《はか》なげに云《い》ひて打《う》ちまもる睫《まぶた》に涙《なみだ》は溢《あふ》れたり馬鹿《ばか》な事《こと》をと口《くち》には云《い》へどむづかしかるべしとは十指《じつし》のさす処《ところ》あはれや一日《ひとひ》ばかりの程《ほど》に痩《や》せも痩《や》せたり片靨《かたゑくぼ》あいらしかりし頬《ほう》の肉《にく》いたく落《お》ちて白《しろ》きおもてはいとゞ透《す》き通《とほ》る程《ほど》に散《ち》りかかる幾筋《いくすぢ》の黒髪《くろかみ》緑《みどり》は元《もと》の緑《みどり》ながら油《あぶら》けもなきいた/\しさよ我《われ》ならぬ人《ひと》見《み》るとても誰《たれ》かは腸《はらわた》断《た》えざらん限《か》ぎりなき心《こゝろ》のみだれ忍艸《しのぶぐさ》小紋《こもん》のなへたる衣《きぬ》きて薄《うす》くれなゐのしごき帯《おび》前に結びたる姿《(すが)た》今《いま》幾日《いくひ》見《み》らるべきものぞ年頃《としごろ》日頃《ひごろ》片時《かたとき》はなるゝ間《ひま》なく睦《むつ》み合《あ》ひし中《うち》になど底《そ
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