見えても僕は官員だといふ、嘘を仰しやれ日曜のほかに遊んであるく官員樣があります物か、力ちやんまあ何でいらつしやらうといふ、化物ではいらつしやらないよと鼻の先で言つて分つた人に御|褒賞《はうび》だと懷中から紙入れを出せば、お力笑ひながら高ちやん失禮をいつてはならない此お方は御大身の御華族樣おしのびあるきの御遊興さ、何の商賣などがおありなさらう、そんなのでは無いと言ひながら蒲團の上に乘せて置きし紙入れを取あげて、お相方《あひかた》の高尾にこれをばお預けなされまし、みなの者に祝義でも遣はしませうとて答へも聞かずずん/\と引出すを、客は柱に寄かゝつて眺めながら小言もいはず、諸事おまかせ申すと寛大の人なり。
お高はあきれて力ちやん大底におしよといへども、何宜いのさ、これはお前にこれは姉さんに、大きいので帳場の拂ひを取つて殘りは一同《みんな》にやつても宜いと仰しやる、お禮を申て頂いてお出でと蒔散らせば、これを此娘の十八番に馴れたる事とて左のみは遠慮もいふては居ず、旦那よろしいのでございますかと駄目を押して、有《あり》がたうございますと掻きさらつて行くうしろ姿、十九にしては更けてるねと旦那どの笑ひ
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