いが、私はこれでも彼の人の半纒をば洗濯して、股引のほころびでも縫つて見たいと思つて居るに、彼んな浮いた心では何時引取つて呉れるだらう、考へるとつく/″\奉公が厭になつてお客を呼ぶに張合もない、あゝくさ/\するとて常は人をも欺す口で人の愁らきを恨みの言葉、頭痛を押へて思案に暮れるもあり、あゝ今日は盆の十六日だ、お焔魔樣へのお參りに連れ立つて通る子供達の奇麗な着物きて小遣ひもらつて嬉しさうな顏してゆくは、定めて定めて二人揃つて甲斐性のある親をば持つて居るのであろ、私が息子の與太郎は今日の休みに御主人から暇が出て何處へ行つて何んな事して遊ばうとも定めし人が羨しかろ、父《とゝ》さんは呑ぬけ、いまだに宿とても定まるまじく、母は此樣な身になつて恥かしい紅白粉、よし居處が分つたとて彼の子は逢ひに來ても呉れまじ、去年|向島《むかふじま》の花見の時女房づくりして丸髷に結つて朋輩と共に遊びあるきしに土手の茶屋であの子に逢つて、これ/\と聲をかけしにさへ私の若く成しに呆れて、お母さんでござりますかと驚きし樣子、ましてや此大島田に折ふしは時好の花簪さしひらめかしてお客を捉らへて串戲《じようだん》いふ處を聞かば
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