有りて中一日はつぶれしかど前後の上天氣に大鳥神社の賑ひすさまじく此處をかこつけに檢査場の門より乱れ入る若人達の勢ひとては、天柱くだけ、地維《ちい》かくるかと思はるゝ笑ひ聲のどよめき、中之町の通りは俄かに方角の替りしやうに思はれて、角町《すみちやう》京町《きやうまち》處々のはね橋より、さつさ押せ/\と猪牙《ちよき》がゝつた言葉に人波を分くる群もあり、河岸の小店の百囀《もゝさへ》づりより、優にうづ高き大籬《おほまがき》の樓上まで、絃歌の聲のさま/″\に沸き來るやうな面白さは大方の人おもひ出でゝ忘れぬ物に思《おぼ》すも有るべし。正太は此日日がけの集めを休ませ貰ひて、三五郎が大頭《おほがしら》の店を見舞ふやら、團子屋の背高が愛想氣のない汁粉やを音づれて、何うだ儲けがあるかえと言へば、正さんお前好い處へ來た、我れが※[#「飮のへん+稻のつくり」、第4水準2−92−68]この種なしに成つて最う今からは何を賣らう、直樣煮かけては置いたけれど中途《なかたび》お客は斷れない、何うしような、と相談を懸けられて、智惠無しの奴め大鍋の四邊《ぐるり》に夫《そ》れッ位無駄がついて居るでは無いか、夫れへ湯を廻して砂
前へ 次へ
全64ページ中54ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
樋口 一葉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング