にある者みな笑ひころげぬ。
 正太は一人眞面目に成りて例の目の玉ぐる/\とさせながら、美登利さんは冗談にして居るのだね、誰れだつて大人に成らぬ者は無いに、己らの言ふが何故をかしからう、奇麗な嫁さんを貰つて連れて歩くやうに成るのだがなあ、己らは何でも奇麗のが好きだから、煎餅やのお福のやうな痘痕《みつちや》づらや、薪やのお出額《でこ》のやうなが萬一《もし》來ようなら、直さま追出して家へは入れて遣らないや、己らは痘痕《あばた》と濕《しつ》つかきは大嫌ひと力を入れるに、主人《あるじ》の女は吹出して、それでも正さん宜く私が店へ來て下さるの、伯母さんの痘痕は見えぬかえと笑ふに、夫れでもお前は年寄りだもの、己らの言ふのは嫁さんの事さ、年寄りは何《どう》でも宜いとあるに、夫れは大失敗《おほしくじり》だねと筆やの女房おもしろづくに御機嫌を取りぬ。
 町内で顏の好いのは花屋のお六さんに、水菓子やの喜いさん、夫れよりも、夫れよりもずんと好いはお前の隣に据つてお出なさるのなれど、正太さんはまあ誰れにしようと極めてあるえ、お六さんの眼つきか、喜いさんの清元か、まあ何れをえ、と問はれて、正太顏を赤くして、何だお六
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