らないけれど時の拍子だから堪忍して置いて呉んな、誰れもお前正太が明巣《あきす》とは知るまいでは無いか、何も女郎《めらう》の一疋位相手にして三五郎を擲りたい事も無かつたけれど、萬燈を振込んで見りやあ唯も歸れない、ほんの附景氣に詰らない事をしてのけた、夫りやあ己れが何處までも惡るいさ、お前の命令《いひつけ》を聞かなかつたは惡るからうけれど、今怒られては法《かた》なしだ、お前といふ後だてが有るので己らあ大舟に乘つたやうだに、見すてられちまつては困るだらうじや無いか、嫌やだとつても此組の大將で居てくんねへ、左樣どち[#「どち」はママ]斗《ばかり》は組まないからとて面目なさゝうに謝罪《わび》られて見れば夫れでも私は嫌やだとも言ひがたく、仕方が無い遣る處までやるさ、弱い者いぢめは此方の恥になるから三五郎や美登利を相手にしても仕方が無い、正太に末社がついたら其時のこと、決して此方から手出しをしてはならないと留めて、さのみは長吉をも叱り飛ばさねど再び喧嘩のなきやうにと祈られぬ。
 罪のない子は横町の三五郎なり、思ふさまに擲かれて蹴られて其二三日は立居も苦しく、夕ぐれ毎に父親が空車を五十軒の茶屋が軒まで
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