こそ美くしいや、廓内《なか》の大卷《おほまき》さんよりも奇麗だと皆がいふよ、お前が姉であつたら己れは何樣《どんな》に肩身が廣かろう、何處へゆくにも追從《つい》て行つて大威張りに威張るがな、一人も兄弟が無いから仕方が無い、ねへ美登利さん今度一處に寫眞を取らないか、我れは祭りの時の姿《なり》で、お前は透綾《すきや》のあら縞で意氣な形《なり》をして、水道尻の加藤でうつさう、龍華寺の奴が浦山しがるやうに、本當だぜ彼奴は岐度怒るよ、眞青に成つて怒るよ、にゑ肝《かん》だからね、赤くはならない、夫れとも笑ふかしら、笑はれても構はない、大きく取つて看板に出たら宜いな、お前は嫌やかへ、嫌やのやうな顏だものと恨めるもをかしく、變な顏にうつるとお前に嫌《き》らはれるからとて美登利ふき出して、高笑ひの美音に御機嫌や直りし。
 朝冷《あさすゞ》はいつしか過ぎて日かげの暑くなるに、正太さん又晩によ、私の寮へも遊びにお出でな、燈籠ながして、お魚追ひましよ、池の橋が直つたれば怕い事は無いと言ひ捨てに立出る美登利の姿、正太うれしげに見送つて美くしと思ひぬ。

       七

 龍華寺の信如、大黒屋の美登利、二人なが
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