りだから其うちにも夜るは危ないし、目が惡るいから印形《いんぎやう》を押たり何かに不自由だからね、今まで幾人《いくたり》も男を使つたけれど、老人に子供だから馬鹿にして思ふやうには動いて呉れぬと祖母さんが言つて居たつけ、己れが最う少し大人に成ると質屋を出さして、昔しの通りでなくとも田中屋の看板をかけると樂しみにして居るよ、他處の人は祖母さんを吝だと言ふけれど、己れの爲に儉約《つましく》して呉れるのだから氣の毒でならない、集金《あつめ》に行くうちでも通新町や何かに隨分可愛想なのが有るから、嘸お祖母さんを惡るくいふだらう、夫れを考へると己れは涙がこぼれる、矢張り氣が弱いのだね、今朝も三公の家へ取りに行つたら、奴め身體が痛い癖に親父に知らすまいとして働いて居た、夫れを見たら己れは口が利けなかつた、男が泣くてへのは可笑しいでは無いか、だから横町の野蕃漢《じやがたら》に馬鹿にされるのだと言ひかけて我が弱いを恥かしさうな顏色、何心なく美登利と見合す目つきの可愛さ。お前の祭の姿《なり》は大層よく似合つて浦山しかつた、私も男だと彼んな風がして見たい、誰れのよりも宜く見えたと賞められて、何だ己れなんぞ、お前
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