ゝ外なれば詮なく、十三になれば片腕と一昨年より並木の活判處《くわつぱんじよ》へも通ひしが、怠惰《なまけ》ものなれば十日の辛棒つゞかず、一ト月と同じ職も無くて霜月より春へかけては突羽根《ツくばね》の内職、夏は檢査場の氷屋が手傳ひして、呼聲をかしく客を引くに上手なれば、人には調法がられぬ、去年《こぞ》は仁和賀《にわか》の臺引きに出しより、友達いやしがりて萬年町の呼名今に殘れども、三五郎といへば滑稽者《おどけもの》と承知して憎くむ者の無きも一徳なりし、田中屋は我が命の綱、親子が蒙むる御恩すくなからず、日歩とかや言ひて利金安からぬ借りなれど、これなくてはの金主樣あだには思ふべしや、三公己れが町へ遊びに來いと呼ばれて嫌やとは言はれぬ義理あり、されども我れは横町に生れて横町に育ちたる身、住む地處は龍華寺のもの、家主は長吉か[#「か」はママ]親なれば、表むき彼方に背く事かなはず、内々に此方の用をたして、にらまるゝ時の役廻りつらし。正太は筆やの店へ腰をかけて、待つ間のつれ/″\に忍ぶ戀路を小聲にうたへば、あれ由斷がならぬと内儀《かみ》さまに笑はれて、何がなしに耳の根あかく、まぢくないの高聲に皆も來いと
前へ
次へ
全64ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
樋口 一葉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング