を與へしはおろかの事、馴染の筆やに店ざらしの手遊を買しめて、喜ばせし事もあり、さりとは日々夜々の散財此歳この身分にて叶ふべきにあらず、末は何となる身ぞ、兩親ありながら大目に見てあらき詞をかけたる事も無く、樓の主が大切がる樣子《さま》も怪しきに、聞けば養女にもあらず親戚にてはもとより無く、姉なる人が身賣りの當時、鑑定《めきゝ》に來たりし樓の主が誘ひにまかせ、此地に活計《たつき》もとむとて親子|三人《みたり》が旅衣、たち出しは此譯、それより奧は何なれや、今は寮のあづかりをして母は遊女の仕立物、父は小格子《こがうし》の書記に成りぬ、此身は遊藝手藝學校にも通はせられて、其ほうは心のまゝ、半日は姉の部屋、半日は町に遊んで見聞くは三味に太皷にあけ紫のなり形、はじめ藤色絞りの半襟を袷にかけて着て歩るきしに、田舍者いなか者と町内の娘どもに笑はれしを口惜しがりて、三日三夜泣きつゞけし事も有しが、今は我れより人々を嘲りて、野暮な姿と打つけの惡まれ口を、言ひ返すものも無く成りぬ。二十日はお祭りなれば心一ぱい面白い事をしてと友達のせがむに、趣向は何なりと各自《めい/\》に工夫して大勢の好い事が好いでは無「か、
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