かで玉石をしるべき わかち難きのまなこをもつてみだりに毀譽のことばを出さば時に冠をくつにする事あり このあいだにうまれて此詞に左右さるべき文士畫客のをかしさよ 人の見るをこのまず世の聞を願はず靜に思ひを筆墨の間にかまふるもの又いくたりかあらん これありてはじめて天地しるべく人事うかゞふにたるべし 夜深くして月くらくともし火消えんとする破窓のもとにひとり思ひて猶ゑがきがたし
おろかやわれをすね物といふ明治の清少といひ女西鶴といひ祇園の百合がおもかげをしたふとさけび小万茶屋がむかしをうたふもあめり 何事ぞや身は小官吏の乙娘に生れて手藝つたはらず文學に縁とほくわづかに萩の舍が流れの末をくめりとも日々夜々の引まどの烟こゝろにかゝりていかで古今の清くたかく新古今のあやにめづらしき姿かたちをおもひうかべ得られん ましてやにほの海の底深き式部が學藝おもひやるまゝにさかひはるか也 たゞいさゝか六つなゝつのおさなだちより誰つたゆるとも覺えず心にうつりたるものゝ折々にかたちをあらはしてかくはかなき文字沙たにはなりつ 人見なばすねものなどことやうの名をや得たりけん 人はわれを戀にやぶれたる身とや思ふ あはれ
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