さるやさしき心の人々に涙をそゝぐ我れぞかし このかすかなる身をさゝげて誠をあらはさんとおもふ人もなし さらば我一代を何がための犧牲などこと/″\敷とふ人もあらん 花は散時あり月はかくるゝ時あり わが如きものわが如くして過ぬべき一生なるにはかなきすねものゝ呼名をかしうて
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うつせみのよにすねものといふなるは
つま子もたぬをいふにや有らん
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をかしの人ごとよな
春のゆふべよは花さきぬべしとて人ごゝろうかるゝ頃三日四日のかけ斗に成て一物も家にとゞめずしづかにふみよむ時の心いとをかし はぎ/\の小袖の上に羽織きて何がしくれがしの會に出でつ もすそふまれて破らじと心づかひする又をかし 身のいやしうて人のあなどる又をかし 此としの夏は江の嶋も見ん箱根にもゆかん名高き月花をなど家には一錢のたくはへもなくていひ居ることにをかし いかにして明日を過すらんとおもふにねがふこと大方はづれゆくもをかし おもひの外になるもをかし すべてよの中はをかしき物也
底本:「樋口一葉全集 第三卷(下)」筑摩書房
1978(昭和53)年11月10日発行
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