こまかにかんがふるとも論ぜん爲に論をたてなんはそれ虚論ぞかし 一事一物とてもこゝろにそまりたらば事理ふたつなし もと末何かはわかれむ

つら之みつねは自然をうたひたる歌人なるべし 景樹を第二の貫之といふはそのしらべ人の心をもとゝしてやすらかにすなほにとをしへしによれり さるも猶そのよめる歌共の桂園一枝などよろしきも多かれど古今の歌どもに見くらぶれば姿かたちいたくおとりて餘情などさら/\侍らず さりともこれをかれにおとれりとはいふべからず くだりゆくよのならひ人すなほの心をうしなひて物事たくみになりゆきわれと我本のこゝろをさへわするゝに寄れり よこぞりてにごれり ひとり歌の道に古代をとなふるとも此流れをいかでかすまさるべき 世尊ふたゝび世にあらはれて衆生の濟度をなし給はん時此道の人丸くだりて和歌のながれむかしにかへりぬべし

よははかなくてをかしき物也 いさゝか筆に墨をぬりて白紙の上にそめいだせば文といひ歌とよびおのが心にかなひたらばやがて非凡絶倫などたゝゆるぞかし つくる人もとよりこゝろなしほむる者いかでながゝらんや きのふの歌才は今日の平凡に成て見かへるものもなきこそ哀れなれ 凡眼い
前へ 次へ
全11ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
樋口 一葉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング