それとて一紙何ほどにかあたひせん 日々にかうべをなやましてよみ出る歌どもにさへわれながらよろしとうなづくもあらねばまして人の見るめはいかならん 賣文の徒とか人のいやしがる物からこれをこがねにかへらるゝならばわれは親の爲妹の爲はた我が衣食のため更にいとはじ 歌やと成てみせ先にたにざくども書ならべてんあはれかふ人なきをいかにせばや

春の雪のおもひがけずいと深々とつもりたるに何となく物めづらしく火をけに火さし物あぶりくひなどする折人のもとより文あり つねにうちとけぬ人のいとなれ/\敷おもふことをかきおこせてよにある人々の評などさま/″\にあり をかしくてことに我を世にすね物の二葉の春をすてゝ秋の一葉とうそぶき給ふ事わけは侍るべし 柳のいとの結ぼれとけぬ片こひや發心のもとなどゝいへる事多かり 折からをかしうて
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ひたすらに厭ひははてじ名取川
  なき名も戀のうちにぞ有ける
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おのづからいひとく折は侍らん 波のぬれ衣などいはんもふるければとてかへしやりつ これをいかさまにつたへてことやうのものにやいひなすべき たれも人のこゝろ得しらぬ物なれば


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