まなはいかゞあらんしらず
まつ人の音づれは聞事まれにして厭はしき人はしば/\來る この人をかりにかの人とおもはましかばうきは變じてたちまちよろこばしかるべきか 好惡もとこれ人欲のまなこより見ればぞかし 清風むねの中にふかばわづらひなからん物を
おもひてはいと遠きこともいたりてはほどなき物ぞかし 何がしの官省とてもつどひて事をとるものなればいとたやすし 商社などのいと大きなるが人ひとりのこゝろよりおこりてかゝる大廈をもかまへ大いなる事業をもなせりと見るに誠や泯江の水の末に驚くが如し ほとけの道にも三界唯一心心外無別法とぞ侍るめる
はかなくて世に落はふれたる人をおろかにつたなしとてあざけらんは恥かしかるべし 行水にも淵瀬あり人の世に窮達なからめやは 孔子の道にくたしめられしたとへも侍る されば時にあひてさかんにおごれる人もいかゞたふとばんや 計らぬくゐぜにうさぎを得るたとへも聞ゆ たゞみづからは心を平にして此ながれのほかにすまんこそめやすかるべけれ
此月をいかさまにしておくらん あはれよねもなし こがねなど更に得べき望もあらず 身の職とてもわづかに筆とりてものかくよりほかはあらず
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