美に依ってのみ動く。人間は人形の命ずる処に従って人形を動かしているのに過ぎない。指一本動かすのも人形自身が動かさせているのであって、人間自らがその意志でこれを動かしているのではない。何故ならそこの世界では完全な美が一切を支配する絶対の法則であり、その美は人形自身に属して居る。人間は少しもそれにあずかる処がないからである。

     *

 人形芝居の美は人形の持つ美がその主体をなしている。それは静的の美である。人形は動いている時にも尚そこに常に或る静寂の要素を持つ。
 人形は永久に沈黙の衣を纒う。
 人形は語らない。然し人形は歌う。それは「沈黙の唄」である。だから人形芝居にお喋べりを持ちこむ程失敗に導かれる時はないだろう。
 人形の言葉は音楽である。人形の世界はあらゆる概念的なものを排斥する。そこでは唯純枠感情と完全な叡智即ち最も具体的な意志のみが呼吸することが出来る。それ程そこの空気は軽く澄み切って、清浄である。そして音楽のみが言葉を純粋感情に変形することが出来る(或は音楽に於てのみ純粋感情が自分を直接に表示する事が出来る)。そこに言葉の燿変がある。
 人形の動作《アクション》は静
前へ 次へ
全9ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
竹内 勝太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング