縦な逸楽を得たい欲念が起って、白粉臭い美人に接したがる煩悩の犬走り、国家の一機関が網を張って居るに気付かず、手もなく「御用」の声で縛に就くのである
円本の著者訳者は、大量生産であるから、五分か一割の印税でも、十万二十万の押印料は、少くも五千円、多いのは一二万円の金が懐中に入る、そこで年中貧乏生活をして下宿料もロクに払えず、或は嬶の腰巻一つも買えなかった凡夫の奴共、強窃盗犯者と同様、先ず第一に駆け付けるのがカフェー、新調の洋服か何かで、五円のチップ「あなたホントニ御様子《スタイル》のいいお方ネー」が始まりで、牛込神楽坂の魔窟、赤坂溜池の料亭ビタリ、始末におえぬ其ダラケさ、フン縛ってやりたい、ここな文壇の剽窃犯人《どろぼう》

ここに一つ附記せねばならぬ事がある、それは「印税前借りの吐き出し」という話、円本流行の凋落に近づいた例証の一つ、雑誌『日本及日本人』所載の一節である
いよ/\円本の没落期が来た、世界文学全集が十万以下に減じたとか、又良さそうでいけないのが、長篇小説全集とやら、もうそろ/\落ちかかったという
長田幹彦といえばその昔、今の三上於菟吉ほどの全盛で文壇を唸《うな》らしたほど
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