うのではない、それ等は一円本予約出版の流行に乗じて出ただけのものもあり、或は其流行に関係なく、旧来行われた全集予約の例に倣って出たのが、タダ時を同うする迄のものもあり、又概して堅実の著作有益の良書たるものが多いから、ここにはそれを除外とするのである

害毒の要目
版刻の売本が始まった慶長以来未曾有の大弊害なり
円本出版屋の無謀 図書尊重の念を薄からしむ
円本著訳者の悖徳 予約出版の信を失なわしむ
普通出版界に普及せし悪影響 融通金主の当惑
多数少国民を荼毒せし文弱化 印税成金の堕落
広告不信認の悪例を作りし罪 国産用紙の浪費
批評不公正の悪習を促せし罪 製本技術の底下
通信機関の大妨害 一般財界の不景気を助長す
運輸機関の大障礙 一般学者の不平心を醸成す
全国各地津々浦々までへも及ぼせし稀代の大流毒なり

円本出版屋の無謀
大量生産を基礎として、一円本出版の企画をしたことは、大なる無謀であった、資本主義の極端な弊害を暴露し、他へ及ぼす悪影響と自然に起る悪結果を考慮せず、只管自家の営利をのみ目的としたのは、商業道徳の破壊ばかりでなく、経済原則破壊、風教破壊たる非国家的非社会的の暴挙と云って可なりである
次に利己一遍の有象無象が、自衛上の已むなきに出たとしても、発頭者の無謀をマネて其罪悪を拡大し、其害毒を増大せしめたのは、共に不埒の暴挙である、其暴挙であるが故に、悪竦の手段を講ぜねばならず、卑劣の窮策を廻らさねばならぬハメに陥りやがて悲哀を招き煩悶を来たして、終には没落するに到るのである、これ皆無謀行為の自業自得、考慮なき暴挙の悪因悪果として、当然の成行であらねばならぬ、以下条を追って其実証実例を列記する

附記 大量生産の円本出版其事が無謀の暴挙であるばかりでなく、円本出版屋の手段に就ても種々の暴挙がある、確乎たる収入の予算もないに、諸新聞へ大広告文を掲載せしめて其代料を支払わず、紙屋印刷屋へ注文した書冊の代料を支払わず、或は、他人の著作権を侵害して円本の材料とするなど、彼等の不徳行為は※[#「※」は「てへん+婁」、47−12]指に遑なしで、其ため強硬の談判を受けて逃げ隠れるもあり、示談金を出してアヤマルのも多い、諸新聞紙上に掲出された岩波書店の被告事件などは表沙汰の一例に過ぎない
其一例とは、往年大倉書店が故夏目漱石と著作権共有の契約で出版した『吾輩は猫である』を、
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