とをつけて居ることは知らずに歩くので自分の方が先きになつてしまつた
自分は川を流れてゆく杖を追ひかけ拾ふやうに、
先越しをして路次に立つて、
流れて來るのを待つて居た。
何と云ふ靜かな歩き方だ。のろい流れだ。
もつと早く歩かなくては幸福は逃げてしまふ
そこへ來た時自分は
「ばうや」と男の子を呼んだ。
然しその聲は胸がをどる程大きいと思つたが、
向ふが聾なのか小さくてか聞えなかつた。
自分は恥づかしくて立すくんだ。
三人は又行き過ぎた。
自分は引返へさうと思つた
然しもうそんな餘裕はなかつた。
自分は又三人を追ひ越した。
然うして今度は路次のほとりに何氣なく立つて
通りかゝつた小供を何氣なく呼んで金を渡した
今度は聞えた。聾ではなかつた。
然しこの小供は唖であつた。禮も云はずに
金を受取ると默つてすぐ母に渡した。
母は首から紐をかけて懷に入れた
財布を出してその中へ七錢の錢を入れて禮を云つた。
「大變でせうね」と自分は云つた。
云つたあとからきまり切つてゐると自分は思つた。
「はい小供がありますので……」
あとは聞えなかつた。云へなくて云はなかつたからだ。
自分はもうそこに居なかつた。

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