ち捨てる
この混亂の中で人は熱情を露骨にする
女も男も急がしくその用に追はれて歩いて居る
自分もこの混亂の美に加る。
この人波に飛び込むとわけも無く歩いて行ける
自ら足がどこかへ向く
不思議なやうに道が誘つてくれる。
道を横切る者、混雜をよけて道端を行く者
後ろ向きの人、前向きの人
眞直ぐに歩いて來る近き、遠き男女の顏々
この雜沓の中で
馬子は荷馬車を道の隅に待たして知り人の家の前で話して居る。
ゴタ/\通る百姓が荷馬車にけんつくを食はして行く
馬は前足を二本合はして縛られた綱を
無器用にゆるめ解かうとして居る。
氣のついた馬子は食はへ煙管で呑氣に道を横切つて行つて、
しつかり結へ直し、又話の續きをやりに歸つて行く。
馬は知らん顏して遠くの方を見てゐる
乘合馬車も通る。滿員だ。
二匹の馬は互に鼻づらを合はせつこして
歩きづら相に鞭でたゝかれて走つて行く。
馬車が通り過ぎるとその間立止つて居た人が澤山
馬車の蔭からゾロ/\現はれて歩き出す、
驚いた羊の樣に小走りに走り出るのは女だ。
皆んな馬車に乘らないで板橋の方から東京へ行く百姓の家族だ。
この暖いのにやたらに着込んで尻をはしよつて居る
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