ない
然しそこには目に見え無い活動がある
空地の隅に並んだ木々の逞しい幹が、
一本一本地面から跳り出してゐる
目に見えない運動がどこからか續いてゐる
地中から空中へ日に日に春らしくなる空氣の中で木は調和して來る。
逞しい幹が柔げられてうねりを見せて跳り上るやうに
白い手を地上からのばして傾いてゐる
上の方へ行くと空中で外の木の枝と枝とがしなやかに交つてゐる。
その間に交つて冬から殘つた青葉が
冬の間は忘られてゐたのに、目に立つて生きて來る。
然し
垣根の向ふの、
うしろ向きの家の
黒い屋根の上には無雜作に落葉が散らばつてゐる
その上に未だ凍り易い天空の寂寞の色
月でも出相だ
地面は底知れない靜かさでひろがり
その上を白犬が
鼻を地面にくつつけて
あつち、こつちへよろけ乍ら忙し相に
食を求めてすばしこく走つて行く
[#地から1字上げ](三月五日)

  初春の日

今日は春のやうに暖い
裏の空地で雀が一杯囀つて居る
姿は一羽も見え無い
見て無くても歌だけ聞える
自分はぢつとしてゐられ無いで外へ飛び出す
往來は賑やかだ。
燃える樣な空氣が流れる
大變な人出だ
この混亂の中で
自分は孤獨をう
前へ 次へ
全102ページ中82ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
千家 元麿 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング