を味ふと
涙ぐみたくなる
或る晩四人の友達と
霜解けのひどい田舍道を歩いた。
晝間なら一人では淋しい處を
四人は興奮して饒舌り乍ら
黒ずんだ林の中や霜解けの崩れる田圃道を先きになり、
あとになり、ぐん/\歩いた。
空には星が綺麗に三つ位連つて並んだり、
横になつたり、斜になつたりしてゐた。
丘の上の寢鎭つた家の窓には灯がともつて靜かに射して居た。
自分達は希望に燃えては仕事の話をして歩いた。
自分達が死んでも尚生きてそこにあるにちがひない、
大きな樹の下を默つて通つたり、
道惡を山羊のやうに跳ねて飛び越したり
小便をして遲れた友を一人殘して
行き過ぎてからうしろから馳けて來るのに氣がついて待つたり
その晩家へ歸つて來ても自分は
更くるまで一人で起きて居た。
未だ友達と話して居るやうに
内の騷ぎが鎭まらなかつた。
幸福で幸福でたまら無くて熱い涙が流れた。
友達の聲がほてつた耳にさゝやき
田舍の景色が眼に浮ぶ
永い間虐げられて居た感情が
美にふれて涙と溢れ流れるのを自分はとゞめる事が出來なかつた。
失つたと思つて居たものを見出した樣に
自分は有難くてたまらなかつた。

  雁

暖い靜かな
前へ 次へ
全102ページ中80ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
千家 元麿 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング