脊中に埋める。そこは少しはいゝ具合に暖い。
もぐれるだけもぐる。頭のてつぺんが寒い。
然し彼はその搖れる脊中の上で眠る。
三枚一錢、三枚一錢と云ふ母の叫ぶ聲と、
何だかわからない大きな火の燃えるやうなごう/\云ふ夜の子守唄を聞き乍ら
幸福さうにねむる。腹も未だ減らないし、小便も出度くないから。
さうして夜ぴて母と小供は走るのだ。
三枚一錢、三枚一錢……しつきりなしに走るのだ。
電車は來ては止り、行つてしまふ。
夜はごう/\唸つて更けて行く。
それから疲れ切つた母と子とはどこかへ歸つてゆく
小供は今度は母に話しをかける事が出來る。笑ふ事も出來る
二人は話し乍ら歸つてゆく。小供は笑ふ。いゝ聲で笑つて。
四邊を響かせ乍ら、彼等は家へかへつてゆく。
[#地から1字上げ](一九一七、一、二夜)

  或夜

小供は眠つた。家の中は靜かになつた。
苦るしい沈默が室の中にある。
妻も夫も默つて小供を見守つてゐる。
小供は馬鹿に大きく見える。
妻の腕に抱かれて足を伸ばしてゐる。
ひつくりかへつて居るのが可笑しいやうに。立派な男の子だ。
見て居ると夫も妻も緊張した苦るしさを感じる
氣の遠くなる樣な冬枯の
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