/\と水をはねかす金魚、淋しい金魚、
自分と前後して縁日で買つた五匹の中一匹生き殘つてゐた、
あの小さな金魚、御前も決して無情ではない。
あれを見る度びに俺は娘を思ひ出すだらう
淋しい哀れな、御父さんに別れて、
御母さんと淋しい他人の家の二階へ行つた娘を御父さんと別れてから
あの御母さんの元氣なささうにくらしてゐた事を
俺は忘れないだらう
あの淋しい人達……幸福でつゝがなくあれ。
[#地から1字上げ](九、二十一日、愛の本所載)

  三人の親子

或年の大晦日の晩だ。
場末の小さな暇さうな、餅屋の前で
二人の小供が母親に餅を買つてくれとねだつて居た。
母親もそれが買ひたかつた。
小さな硝子戸から透かして見ると
十三錢と云ふ札がついて居る賣れ殘りの餅である。
母親は永い間その店の前の往來に立つて居た。
二人の小供は母親の右と左の袂にすがつて
ランプに輝く店の硝子窓を覗いて居た。
十三錢と云ふ札のついた餅を母親はどこからか射すうす明りで
帶の間から出した小さな財布から金を出しては數へて居た。
買はうか買ふまいかと迷つて、
三人とも默つて釘付けられたやうに立つて居た。
苦るしい沈默が一層息
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