一日も終つた、もう考へる事は無い
明日は何か變化があるだらう
自分には見えるやうだ。
あの小柄の老人が
若い犯人の側に目だたない位つゝましく默つてくつついて
捨てられるのでも恐れるやうに
申し合はしたやうに、
寢床へいそいで飛び込む姿が
さうしてあの若い犯人はこゝではたしかに老人の保護者だ。
彼は老人より罪が重いから。
老人は彼を自分の子供のやうに慕ふのだ。
身も心も彼の側を離れられ無いのだ。
一人となるのはこゝでは恐いのだ。
あゝ何と云ふ美だ。
癈れた者にこの美があるのだ。
觸はつたらたまら無い美がもうもろく露骨になつてゐるのだ。
自分はもう書けない。
書かなくてもいゝ、[#地から1字上げ](十一月二日)
雨
雨が降る、安らかに恙なく
天から地に屆く
人通りはまるで無い。自分一人だ。
店々は燈をかゝげ、人が坐り、
永遠に然うして居るものゝやうに見える。
本當にどこに恐れや暗さがある。
雨は往來にさした燈の中に美くしい姿を見せて
濛々とした薄闇の世界へ音も無く消えて行く。安らかだ。
ゴト/\と荷馬車が一臺向ふ側を通る。
實に靜かだ。音も無く雨は降る。
小景
今日は馬鹿
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