生き暖き神の手にあれ
よみがへし給ふは神の息のみ
清淨な風と火の業にあれ。[#地から1字上げ](一〇、二四)
或る時
御寺のあとの空地に
旅廻りの曲馬がかゝつて
高い天幕を張つて旗や提灯を樹てた。
自分は小さい弟や妹にせがまれて見に行つた。
未だ始つてゐなかつた。
人々は草原に集り、高いところに並べてつるした
繪看板を見上げたり、前に並んだ馬を見たりしてゐた、
幕が開いてゐて中には舞臺としやじきが見えた。
絆纒を着た男や襷がけの女が、ランプをつるしたり、
舞臺を掃いたり、座布團を重ねて居た。
犬も澤山ゐた。小さな椅子の上に乘つて外を見て居た。
人がゾロ/\集つて來た。
繪看板のうしろの高い所、
ボツクスに樂隊が陣どつて悲しいふしで吹奏し出した。
御白粉をはげちよろに塗つた十か十二位の女の子が舞臺へ出て來て、
犬にからかつて居た。
札賣場に大きな男がのつかつて、
札をつみ上げて原の方から集つて來る人を見て居た。
妹や弟は遊び廻はつては天幕の前に來て中を見た。
馬を批評した。
見物人は殖えて來て、
札を賣り初めた。
日はくれかゝつて天幕の向ふの空に燃えてゐた大きな雲が崩れ初めた。
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