てしまつて
嬉々として歩んでゆく。幸福の足の危さ。
幾度もつまづき、
ころんでも汚した手を氣にし乍らます/\元氣に一生懸命にしつかり
歩かうとする。

未だ小學校へ入らない
いたづら盛りの汚ない兒供が
メンコを打ち乍ら群れて來る。
忽ち彼はその中に取り圍れる。
皆んなから何か質問される
わが子は横肥りの小さな躯で眞中に一人立つて小さい手をひろげて
小供を見上げて何か告げて居る
小供等は好奇心と親切を露骨に示しメンコを彼に分けてくれる。
何にでも氣のつく小供等は彼の特色を發見して叫ぶ
『着物は綺麗だが頭でつかちだ。』

かくして尚も先へ先へと歩み行く
わが兒をとらへて抱き上ぐれば
汗だらけになり、上氣して
觀念した樣に青い眼をぢつと閉ぢて力がぬける
自分は驚いて幾度も名を呼びあわてゝ木蔭へつれこむ、そこにはひやひやと
火をさます風が吹いて來て、
彼は疲れ切つて眠り入る。
一生懸命に歩き
一生懸命に活動したので
自分の眼には涙が浮ぶ。
[#地から1字上げ](一〇、一一、愛の本所載)

  闇と光

暗夜の中に光りはめぐる
暖に、氣丈夫に
生命の火は勢よく燃える。
地を撲つ雨の烈しい時に、
火は衰へて沈み行き
火の壯なる時、雨は衰へ
烈しき雨とめぐる火と
明滅する刹那
闇の中に美くしく濡れて立つ何本の木を見る。
靜かな光りが梢に蛇のやうにまつはつて居る。
自分は雨戸を貫いて木と相面したやうに感じる。
光りの座の上に相抱いたやうに感じる。
あゝ氣がつけば相撲ち、明滅する
闇と光りの美くしさ
雨よ降れ、火よ燃えよ
光りを生む爲め永劫に衰へるな。

  朝

朝、
清淨な火の風はよろづのものゝ上に吹き渡り
人も木も鳥も凡てのものが皆默つて戰きを感じる
非常な靜かさが空の頂天から地の底まで感じられる
棒のやうに横ふ雲も隅の方にかたづけられて
空にはあちらこちらで
白熱した星がくるくると廻轉し乍ら
すばらしい速力でかけて行く
然うして
消えるものは消えて行き
天の一方がにはかに爆發して
血管が破れたやうに空に光りが潮して來る。
自ら歡喜が人の身に生じる。
にはかに一齊のものに暖い活氣が生じて來る
かゝる時初めて見上げた空の感じは忘られない
人は空の頂天から地の底まで。
火の通じてゐるのを感じる。

  夜

鐘が鳴る。
一日の終りの
街のどよめきの上に
今太陽は朝よりも大きく輝いて
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