れその区別を失い、クヮ・グヮはカ・ガとなり、入声のtはツ音となって、その数を減じ、ハ行音、およびエ・オ・セの諸音は変化したが、なお、それぞれ一音としての位置を保ち、イはエ段音と合体してエの長音を生じ、語中語尾のガ行音は、語頭のものとわかれて、新たに鼻音のガ行音を生じた。かようにして全体としては音韻はその数をましたのである。そうして、江戸末期以来西洋諸国の言語に接して、その語を国語の中に用いるにいたったが、音韻としては、「チェ」「ツェ」「フィ」「ti」「di」などが、時として用いられる傾向が見える。
 なお、以上の音韻の変遷は、京都語を中心として述べたのであるが、他の方言では、その変遷の時代を異にしたものがあるばかりでなく、その変化の種類を異にして、例えばア列音が次に来るイ音と合体して、種々の開音のエ(普通のエよりも多く口を開いて発するエ類似の音)の長音になり、またイ音がエ音と同音になり、スとシが共に一つの新しい音になるというような類が少なくない。
 殊に、関東においてはオ段長音の開合の別の失われ、またクヮ・グヮのカ・ガに変じた年代が京都語よりも早かったことは証があり、江戸においては、享
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