て、その方言の分布が、クヮ音とそれから変化したカ音との分布と一致する所が多いのと、新旧両形の分布がかなり錯乱しているのとによって見れば、この音変化は比較的新しいものであろうと思われる。
 (七) エ音オ音は、室町末期には<ye><wo>の音であったろうと推定したが、京都語では今日では<e><o>となっている。これは江戸時代において変化したのであろうが、その年代はまだわからない(エ音は九州・東北等の方言では明治以後もyeの音として残っている)。
 (八) 「セ」「ゼ」は室町時代には<she><je>の音であった。これが現代の京都語では、セ・ゼになっている。この変化もいつ頃起ったかわからないが、あるいは江戸時代後半でなかろうかと思う。(方言には、今なおshe音を保っているものがある。関東方言では室町時代から<se><ze>であって、今日の東京語もそうである。)
 (九) 入声《にっしょう》のtもすべてツ(tsu)の音になった(「仏」「鉄」「説」など)。この変化の年代もまだ明らかでない。

 以上述べた所によれば、国語の音韻は、江戸時代において、ヂとジ、ヅとズ、オ段長音の開音と合音が、それぞ
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