わるようになった。ただし、クヰクヱグヰグヱ[#「ヰ」「ヱ」は全て小文字]は鎌倉時代以後、漸次キ・ケ・ギ・ゲに変じて消失した。
 (九) パピプペポの音は、奈良朝においては多分正常な音韻としては存在しなかったであろう、しかるに、漢語においては、入声音またはンにつづくハ行音はパピプペポの音であったものと思われる(「一遍《イッペン》」「匹夫《ヒップ》」「法被《ハッピ》」「近辺《キンペン》」など)。かような漢語が平安朝以後、国語中に用いられるようになりまた一方純粋の国語でも、「あはれ」「もはら」を強めていった「あつぱれ」「もつぱら」などの形が平生に用いられるようになって、パ行音が国語の音韻の中に入った。
 (十) 「ち」「ぢ」「つ」「づ」の音は奈良朝においては<ti><di><tu><du>であったが、室町末においてはchi(〔t※i[#「※」は発音記号。「s」を縦に長くした形のもの、163−11]〕)dji(〔d※i[#「※」は発音記号。「ろ」に似た形のもの、163−11]〕)<tsu><dzu>になった(すなわち「ち」「つ」は現今の音と同音、「ぢ」「づ」は正しく今のチツの濁音、すなわち有声
前へ 次へ
全70ページ中49ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
橋本 進吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング