であります。また、人の言語を聞く場合にも、耳に聞えて来る音を、その組合せの中のどれかであるとして聴き取るのであります。先程言ったように英語ではmarket,match,muchという場合に、mar−とma−とmu−とは別々の音であって、英国人は、これを違った音として聴くのですが、日本人はこれを一つの音として聴くのであります。それは聴く人の頭の中にこの音とこの音という風にちゃんとその音の観念が出来ていて、それが互いに組合って存在し、それ以外のものを排除しているからであります。
 それで、我々が言語を発する時にはその中のどれかを使うので、それ以外の音は用いない。聴く場合もその中の一つとして聴く。それであるから外国から言葉が入って来る場合に、聞く人の言語のもっている音に合わないような音があると、その音を変えて、聞く人の言語にある諸音の中のどれかに合うようにするのであります。例えばチベットという国の名はTibetでありますが、「ティ」(ti)という音は日本語にないので、どの音にも旨《うま》く嵌《はま》らない。それでその語を我々が使う場合には、日本語の中にあるそれに似た音にかえて、チベット[#チ
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