に今日の言語を見ても判る通り、言語の音というものは土地によって違うのであります。一方において区別している音を他の地方において混同するということも無論あるのであります。我々は「シ」の音と「ス」の音とは立派に別々の音として発音し聴き分けておりますが、東北地方に往《ゆ》くと「シ」と「ス」が同じ音になってしまう。「シ」でもない「ス」でもない、同じ音になって区別が判らない。従って、我々は「シ」と「ス」とを書きわけることはなんでもないことでありますが、東北の人は「シ」と「ス」とを正しく書くことはむずかしい。そういうことがあるのでありますからして、中央の国々では区別し書きわけているのに、東国ではこれを混同しているものが多いというのは、やはり発音に区別があったからであると解釈して始めてよく解釈出来るのだと思います。それと共に、時代的に見れば、ずっと古い時代に厳格に区別せられていたのが、或るものは奈良朝の半頃から、或るものは奈良朝の末頃から段々区別が混同して、平安朝に入ってからは大抵区別がなくなったろうという風に考えられる。こういうのも、元は発音上区別があったのでありますが、段々音が近寄って来て遂に混同
前へ 次へ
全124ページ中87ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
橋本 進吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング