であって、ただ、盲滅法《めくらめっぽう》に一つ一つ実例について調べて行くより仕方がない。宣長翁が『古事記』の仮名の用法の研究から見出したのは、こういう事実の或る一端だけであった訳で、これを或る特別の語に用いる万葉仮名の定《き》まりと見たのでありますが、それだけではまだ本当の事実が明らかにならなかったのであります。かような事実は、古代のあらゆる文献から「こ」なら「こ」に当る仮名の用例をすっかり集めて、それがどういう語に用いられているかということを調べてみて、始めて判るのであります。これは随分大変な仕事であったろうと思います。こういう風にして、これまで何人も思いがけなかった全く新しい事実が判ったのであります。
 それならば、こういうような区別があらゆる仮名にあるかというとそうでもないのであります。むしろ比較的少数の仮名においてのみ、かような区別があるのでありまして、先ず普通は十三の仮名に当る万葉仮名が、おのおの二類に分れているのであります。そうしてその区別は普通の仮名(平仮名や片仮名)では書き分けることが出来ないのであります。例えば「こ」に当るものなら、「古」の類も「許」の類もどちらも「こ
前へ 次へ
全124ページ中56ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
橋本 進吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング