ッてあるばかりでなく、『古事記』に限って、「モ」の仮名までも遣い分けてあります。そういう仮名の遣い分けは、後になればなるほど乱れて、奈良朝の末になると、その或るものはもう乱れていると考えられる位であり、平安朝になるとよほど混同しています。もし『古事記』が、平安朝になってから偽造されたものとすれば、これほど厳重に仮名を遣い分けることが出来るかどうか非常に疑わしいと言わなければなりません。そういう点からも偽書説は覆《くつがえ》すことが出来ると思います。また近年出て来た『歌経標式《かきょうひょうしき》』でありますが、奈良朝の末の光仁《こうにん》天皇の宝亀年間に藤原浜成《ふじわらのはまなり》が作ったという序があって、歌の種類とか歌の病《やまい》というようなことを書いたもので、そんな時代にこんな書物が果して出来たかどうか疑問になるのであります。しかし、その中に歌が万葉仮名で書いてあります。その仮名の遣い方を見ますと、オ段の仮名の或ものは乱れているようでありますけれども、大抵は正しく使いわけてあって、ちょうど、奈良朝の末のものとして差支ないと認められます。そういう点から、この書は偽書でなかろうとい
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