だけが、『古事記』の仮名の他と違った点であります。
 さて右に挙げた十三の仮名に濁音のあるものがありますが、その濁音の仮名も清音と同じく二類に分れているのであります。たとえば「キ」と同じく「ギ」にも二種類あるのであります。ところで十三の仮名の中、濁音のあるのはキ、ケ、コ、ソ、ト、ヒ、ヘの七つでありますが、龍麿はそのうち「キ、コ、ト、ヒ、ヘ」の濁音が二類に分れていることを認めていますが、「ケ」と「ソ」の濁音だけは二類あることを認めず、すべて一類であるとしたのであります。
 以上十三の仮名以外のものはどうかと言いますと、「いろは」の四十七の中、上に述べた十三の仮名以外のものは、例えば「か」なら「か」、「あ」なら「あ」はこれに当る万葉仮名は沢山ありますけれども、それは皆同じように用いられて区別なく、「か」とか「あ」とかの仮名に当る所にすべて通用する。すなわちそれは一つの類である。その濁音もすべて同様で、一つの仮名が一類をなすのであります。
 以上挙げたものを総計すると、十三の仮名におのおの二類があるから二十六類、その濁音七つのうち、五つだけが二類にわかれ、二つはおのおの一類であるから濁音はすべて十二類、以上合計三十八類。次に清音四十七の内から右の十三を除いた三十四およびその濁音十三はおのおの一類であるから合計四十七類、これを前の合計と加えれば総計八十五類となります。つまり奈良朝のあらゆる万葉仮名は、以上八十五類に分れることになったのであります。なお『古事記』の仮名だと、他のものよりも「チ」と「モ」と「ヒ」がそれぞれ一類ずつ多いことになっていますから総計八十八類になります。
 右の龍麿の研究は、その性質から言うと、仮名の通用するか通用しないかをしらべたものであります。同じ語が、いろいろの万葉仮名で書いてある例を集めて、どの仮名とどの仮名とが同じ所に用いられるかを調べ、同じ語の同じ部分を表わすために用いられるいくつかの万葉仮名は、互いに通用するものと認めて同類の仮名とし、そうでないものは互いに通用しないものと認めて異類の仮名として、あらゆる万葉仮名を類別した結果、すべて八十五類を得たのであります。これを普通の仮名、すなわち平仮名や片仮名とくらべてみると、普通の仮名の一つ一つが、この諸類の一つ一つに一致するものが多いけれども、かの十三の仮名およびその濁音の仮名は、一つが二つの類
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