期に更にh音に変じたものと思われる。
鳥や獣の声であっても、これを擬した鳴声が普通の語として用いられる場合には、その当時の正常な国語の音として常に用いられる音によって表わされるのが普通である。さすれば、国語の音としてhiのような音がなかった時代においては、馬の鳴声に最も近い音としてはイ以外にないのであるから、これをイの音で摸したのは当然といわなければならない。なおまた後世には「ヒン」というが、ンの音も、古くは外国語、すなわち漢語(または梵語《ぼんご》)にはあったけれども、普通の国語の音としてはなかったので、インとはいわず、ただイといったのであろう(蜂の音を今日ではブンというのを、古くブといったのも同じ理由による)。
それでは、馬の鳴声をヒまたはヒンとしたのはいつからであろうか。これについての私の調査はまだ極めて不完全であるが、私が気づいた例の中最も古いのは『落窪物語』の文であって、同書には「面白の駒」と渾名《あだな》せられた兵部少輔《ひょうぶのすけ》について、「首いと長うて顔つき駒のやうにて鼻のいらゝぎたる事かぎりなし。ひゝと嘶《いなな》きて引放《ひきはな》れていぬべき顔したり」と
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