万葉の手古奈とうなひ処女
杉田久女
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)菟名負処女《うなひをとめ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)うなひ[#「うなひ」に傍点]
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或日私は沈丁花の匂ふ窓辺で万葉集をひもどいてゐる中、ふと高橋虫麿の葦屋の菟名負処女《うなひをとめ》の墓の長歌に逢着して非常な興味を覚えたのである。
人も知る如く虫麿は、かの水江浦島子や、真間の手児名や、河内大橋を独り渡りゆく娘子等をよんで、集中異彩を放つ作家であるが、此うなひ[#「うなひ」に傍点]処女の一篇はことにあはれ深いものである。
手を翻せば雲となり、手を覆へば雨となる、萍の如き現代人はかうした古めかしい心情を鼻先で笑ふであらうが、古典ずき万葉ずきの私にとつては、まことにうなひ処女の純情がなつかしい。
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吾妹子が母に語らく、倭文手纏賤しき我が故、ますらをの争ふ見れば、生けりとも逢ふべくあれや、
ししくしろ黄泉に待たむと、隠沼のしたばへおきて、打ち嘆き妹が去ぬれば――
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のあたり一篇の戯曲をよむ様で、息をも
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