つかせぬ面白さである。
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葦の屋のうなひ処女のおくつきを往来《ゆきく》と見れば音のみし泣かゆ。
葛飾の真間の井見れば立ちならし水汲ましけむ、手児名し思ほゆ。
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 手児奈や、うなひ処女が死をえらんだ純情。青丹よし奈良の都の桜を愛し、萩の野趣をめで、梅花の清香をめづる万葉歌人の純情は、つねに私の詩魂を深くうたずにはおかない。
 俳句の世界にも、手古奈をよんだ句は二三あるが、かゝるふくざつな戯曲的かつとう[#「かつとう」に傍点]を、誰か優れた連作の形式でどしどし試みたら、ずゐぶん面白いものが出来はしないかと思ふ。
 私の知人である、佐藤惣之助氏門下の或若い詩人から、原始時代と現代生活との交流する詩境に創作の構成をなしてゐる、原始林[#「原始林」に傍点]といふ詩集をいつか贈られて感じた事であるが、俳句も白然描写のみでなく、又煤煙と、機械との響き丈を素材にして新しがらず、日本民族の上古、原始林の壮大さ、すべて原始時代のもつ力強さを現代生活に交流させ、現代を通じて原始を見るところの重厚悠大なきぼのものが、現れるのも一つの試みではなからうか?
 空しく籠
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