味を主としたもので、之に反し近代的な日常生活を中心におき、其真を把握する事に努力して、季感は副の感がある。

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(イ)[#「(イ)」は縦中横]電燈に笠の紫布垂れ朝寝かな   かな女
(ロ)[#「(ロ)」は縦中横]旅にえし消息のはし猫初産   より江
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 (イ)[#「(イ)」は縦中横]は電灯に紫の覆絹をかけて朝寝を享楽する現代人の句である。(ロ)[#「(ロ)」は縦中横]、旅宿で受取った留守宅からの消息の端に愛猫の初産を報じてきた事は、子のない作者にとってささやかな喜と感興をそそらずにはおかない。

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(ハ)[#「(ハ)」は縦中横]戯曲よむ冬夜の食器つけしまま   久女
(ニ)[#「(ニ)」は縦中横]幌にふる雪明るけれ二の替   みどり
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 汚れた食器は浸けたまま、戯曲を読み耽る冬夜の妻のくつろいだ心持。(ニ)[#「(ニ)」は縦中横]は近代文芸の一特色なる欧化と都会色。鋭敏な市人の感覚である。二の替を見にゆく道すがら、幌にふる明るい春雪。賑かな馬車のゆきかい。幌の中には盛装の女性が明るい得意な気
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