情のリズムをあらわすのに、いかに調べが大切であるかという事がわかる。此人の素質のよさがうかがわれる句である。
[#天から2字下げ]春愁や櫛もせんなきおくれ髪 より江
より江夫人らしい句である。
春愁の句は、櫛でかきあげてもかきあげてもほつれおちる髪を借りて、春愁の女主人公を描き出した女らしい情緒の句である。万葉の「たけばぬれたかねば長き妹が髪」というような可憐な感じである。より江夫人の句は一体に、柔かい繊細な感情をきぬ糸のように縷々と織りこんだ句が特色である。此春愁の句など夫人の若い日の面影をほうふつとさせるものがある。
[#天から2字下げ]茸狩やゆんづる張って月既に しづの女
前句の調べの優雅さに比して、この句はまた張り切って強弓の如き表現である。私は茸狩というものを余りよく知らないが、あちこちと茸狩してもう帰り路でもあろうか。向いの山影から弓絃をはりきった如き月が鮮かにさしのぼった。
月既に[#「月既に」に傍点]と、弓絃を、ふつりと切り離したように力強くいい放したところ、昂奮した作者の感興も、丁度大絃の如くはりきっている。しづのさん独得の主観のつよい句である。
前へ
次へ
全7ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
杉田 久女 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング