となったという、静かなうるおいのある現代句の方に、親しみを覚えるのである。而し羽紅の句は、確かに才はじけた、美しい元禄の佳句である、と思わるる。

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花少し散つて晴れけり朝曇り  多代女
初花や一木の中の晴れ曇り  同
花に月どこからもれて膝の上  同
さ筵に這ひ習ふ子や花のかげ  同
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 多代女の之等の句は近代写生の中へ交ぜても、さして遜色ないと思う。此人は奥羽にすみ、元禄の秋色や千代に比して世間的名声はじみであるが、其句集を見ると、中々かっちりした、佳句が沢山ある。天明の女流中では有数の作家である。

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暁や桜がもとの捨火燭  星布女
あさぼらけ霞にしづむ桜かな  あふひ
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 榎本星布女は天明第一の女流。あふひ夫人は大正初期から、かな女氏につぐ老練な作家。共にあけぼのの桜を題材として、片方は次第次第に明けしらみゆく花をうたい、他方はなおもこ[#「もこ」に傍点]として霞になずむ桜花をたたえて共に清楚な句境である。星布の力づよい句風よく近代女流俳句の塁をますに足る。

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