つく花見疲れの片手。共に近代人ならではえがき得ぬ情景なり気分なりの細やかさ。
女らしい感情をぬきにした中性句にも勿論価値はあるが、女性としての真の佳句は、やはり女として匂いの高い句である様に思う。ことに百花の女王たる桜のうるわしさを称えるには。
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うたゝねやめさめて畳む花衣 波留女
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十二単の昔から元禄の花見小袖にいたるまで、日本女性のキモノはいともうるわしい。ことに桜のかげを逍遙し、花をめづるには、曲線のしなやかな花衣こそ最もふさわしいもの。
此句、うたたねからめさめて、ぬぎすてた花衣を畳む、女性の黒髪にも、まだ花びらのひと片や二ひら残っていそうにも思われ、花衣の色どりも匂やかに偲ばれる。
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夜桜を見てきて雨となりにけり 三千女
欄干に夜ちる花の立ち姿 羽紅
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元禄の羽紅の句。前書によって、光源氏の君が、落花のちりこむ高欄のほとりに佇んで、朧月夜の内侍の許へ忍ぼうとしてでもいるかの絵姿を思い浮かべるのであるが、余りに美しい絵そら事よりは、事柄は平凡でも、京の夜桜を見てきて雨
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