なしくなったと詠じたものか、すきものの太閤を諷したものか。よく判らぬが、兎に角桜花のらん漫たる感じは、桃山芸術を生み出した豊太閤の豪華な印象より他に比肩すべきものはない。大時代な句として面白くも覚える。一方、烈しい風雨にもまれてま盛りの牡丹桜の花房が、ぽたぽたとちぎれ飛びおつ、妖艶さ、美しいものの傷き易さ。花一房の風情を目に見る様に描き出した近代句と比較して取材表現共に時代の距離を味いたい。元禄時代の句が夜嵐や太閤様を配してさくら狩を構成しているのに反し、現代の句は牡丹桜そのものの風雨にもまるる有様を直叙している。
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花疲れたうべともなき夕餉かな 八千女
窓下に座りくづれて花疲れ 喜美子
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花疲れなどいう題は、享楽的な元禄の女性にありそうでいて案外近代女流のものらしい。ひねもすの刺激と歓楽につかれて花衣もぬぎあえず、夕餉さえたうべたくもなく窓下に座りくずれて、尚もゆめの名残を追想しているかの如き、夕ぐれの中のほお白いかおばせ。
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土手につく花見づかれの片手かな より江
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土手草に
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