花ちりぬこれを名づけて姥桜  尚白女
花の塵払ひて色紙えらみけり  春梢女
前かけの青海波や桜ちる  より江
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 さくらの花の散った梢をみて、これこそ姥桜だと興じたのであるがこれを名づけて[#「これを名づけて」に傍点]などは詩と言わんより、厭味な理屈にきこえる。それよりも花の塵を詠じた句の方が、すっきりと句品もあり、色紙をえらむ女性も偲ばれて内容のうるわしさに好感がもてる。
 桜のちるほとりに、青海波をそめぬいた赤前垂の女を写し出して、お花見か、園遊会かの華かな近代風景を聯想せしめる、より江氏の句も明るくて感じがよい。

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花の窓ひえ/\とある腕かな  より江
鬢の毛に花ふれしかば仰ぎ見る  照葉女
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 こういう句になると、ひえひえとある腕の感覚も、鬢の毛にふれた一朶の桜をうち仰ぐ名妓照葉の面わも、描出も、すっかり近代的なものである。

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花の戸にぬぎも揃わぬ草履かな  多代女
ちる花に襟かきあはす夕べかな  同
文かく間待たせて折らす桜かな  園女
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 花の戸ぼ
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