あふひ
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暮れそめた夕庭に、白々とうき上った牡丹桜がゆらいでいる。動の姿の美しさ。それと反対に風にもうごかぬ満開の桜の花の重たさ。さくらの花丈を力づよく描き出していずれをいずれとも言いがたい風情がある。
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玻璃戸あけて桜明りや夕化粧 春梢女
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源氏物語には、麗人中の麗人紫の女王の、十三絃のしらべの床しさを魂のそぞろになる音色と評し、その面わを桜花にたとえ、見ている人の顔にてり返してくる様な絶世の美人だと、夕霧の君に感嘆させている所があったが、此句も粧いつつある美わしい面わにてりくる如き夕桜の真白さを、桜明り[#「桜明り」に傍点]とは面白くよみ出でたものである。
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花人を棹に堰き舟出でにけり みどり女
伏せ籠の雛にかゞみぬ花吹雪 同
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花見の人を乗りこぼれるほどのせた渡舟が、尚も乗りこまんとひしめく岸の群衆を、棹で堰きとめ残したまま漕ぎ出てしまったという、目に見る如き面白さ。伏せ籠のひよこを見つつかがんでいると花吹雪が降って、忽ちにあたりの大地も籠も、
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