りであるのに、自分丈は病身か何かの事情で花見にも行けず、幽鬱とも不平とも云いしれぬ淋しさが、感じたままに言い放った言外にあふれている。花さく頃の悩ましく感じ易い若い女性のもだえをよみ出ている。一方、こもりいの花なき里にも住みなれて、よその花を探ねんとも願わず、安住する心易さ。或は草庵を結んで、さく花に置炬燵をたのしむ心もちの深さ、落付き。これらの句は作者の境涯からにじみ出た句で安身の影さえうかがわれる。

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井のはたの桜あぶなし酒の酔  秋色
酔ふ人を花の俥へ総がかり  みどり女
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 上野清水堂の秋色桜は枯れてしまったが、此句はひろく後世に喧伝されている。酔いしれた人を総がかりで花かげの俥に乗せつけている近代句に比して秋色の句、才気ほとばしり、当時では秀吟であったらしいが、桜あぶなし[#「桜あぶなし」に傍点]という所、危い技巧の山とも見えて、秋色桜を脚本としてかきおろされる筋の面白味は充分あるけど、句としては従来余りに高く評価されすぎている様に思う。

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夕庭に牡丹桜のゆらぎかな  より江
桜花風に動かぬ重たさよ  
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