方は北方を意味し、何れもある格段なる地理的地點を指したるものなりとは認むる能はざる也。
 而してその鳥と火とは十二宮中の座次にして、その虚と昴とは二十八宿中の宿名なり。かく東と南とは十二宮により西と北とは二十八宿に據れるに見ば、堯典の暦を作れるものは、十二宮及び二十八宿の智識を有せしものなるや明けし。然らば何故にそが十二宮なり二十八宿なりにて劃一せられずして、却て相混合せるものを擧げしか。これ陰陽思想によりて占星家の手に成りしものなるを考へしむる也。その理は十二宮は太陽運行に基き、二十八宿は太陰の運行に基きしものなれば、陽の初なる東とその極なる南とを十二宮に、陰の初の西とその極の北とを二十八宿の星座に據らしめしものと見らるればなり。
 されば堯典記載の天文が、今日の科學的進歩の結果と相合はず、その十二宮、二十八宿を東西南北の相稱的位置に排列せることが、天文の實際にあはざることも、もとより當然のことなり。この堯典の記事は天文の實地觀測に立脚せるものには非ずして、占星思想より編み上げられ、十二宮二十八宿の智識と、陰陽思想とがその根底となりしものなるを知るべき也。
 又禹貢の九州を見るに之に
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