助は却《かへ》つて自分の気持ちが妙に硬《こは》ばるのを感じた。で彼は窓の外へ眼をやつた。
「何か感想がありさうなものだな、」と遠野は笑ひながら云つた。
「話さうと思へば無くもないさ、然しそんなことは馬鹿げてる。」と道助は呟《つぶや》くやうに答へた。
「その馬鹿げたことを訊いてるのさ。」と遠野が今度は椅子の上に反り返つてのびをしながら云つた。そしてすぐに彼は「実際、面白いことはさう沢山無いよ。」と附け足した。その調子が可笑《をか》しくて道助は思はず噴き出した。それに連れて遠野もお腹を抱へた。
するとその彼等の声に応じるかのやうに扉を叩《ノック》する音が静かに響いて来た。道助は立ち上つた。
「いゝんだよ。」と云ひつゝ遠野はまたキュラソウの壺を取り上げた「でどうだ。あの鳥は?」
「あゝ失敬、彼女が大変喜んでゐるよ。退屈なものだから。それでね、是非一度君を招待しろと云ふんだ。」
「あゝその使ひに来てくれたのか、ありがたう、ゆくよ、奥さんにも逢つとかなくちやね。」
その時、劇《はげ》しく扉が明け放たれた。そして濃い空色のショウルを自暴《やけ》に手首に巻きつけたモデルのとみ子がつと這入《はい》
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